ならんだまつぼっくり





三月の夕暮れどき
ぼくはいつもの道を走った
人通りの少ない道

ちょっとした距離を往復する
数えるのが面倒だから
なにか目印になるものを探した

落ちていたまつぼっくりを拾い集めて
十個 道の端にならべた
一往復したら はしっこのやつをけとばす
全部なくなったら おしまい

走りだし 戻ってきて
ひとつけとばし また走りだす…
(小鳥の声がする。二羽かな? ずっと遠くからカラスの声も…)
戻るたびに きれいにならんだまつぼっくりが 目に映る

 このまつぼっくりたちにも
 ひとつひとつに
 ここにいたるまでの経緯があるのだろう
 それらがたまたま拾いあげられ
 こうして十個 ならんだんだ
 でも…
 集まった十個はひとつずつ
 ころん と道の脇にけとばされ
 どこかにいってしまう
 (すくなくともあと一時間しないうちに みんな)

 おそらくぼくは もう
 この日集まった十個のまつぼっくりと
 また会うことはないだろう
 この十個がまた再会することはないだろう
 (なんだか かなしいな)
 今日 こうしてならんだ一時が
 まつぼっくりたちの思い出になればいいな
 そう願ってみた

 けとばされたまつぼっくりは
 これからずっと そこに居続けるのかな
 雨を浴びて 雪に埋もれて
 そのうち みえなくなってしまうのかな
 (なんだか かなしいな)

 でも どうだろう
 まつぼっくりは そこまで考えていないかもしれない
 人間のぼくが勝手に考えただけのことであって
 今日まつぼっくりに起こったことは
 落ちている場所が少しずれただけのことにすぎない
 それだけのことで 何も思っていないのかもしれない
 ぼくにはわからない

さいごのひとつを けとばした
(みんないなくなってしまった)
ぼくは 歩きだした

冷たい空気がここちよい
ほんの少し あがった息
体操をして
それからまた いつもの日常へともどる









季刊詩誌「舟」163号 (2016年5月)